under design Special Talk #02

特別対談作品《c》が、見せてくれるもの

アンダーデザイン名古屋オフィスのシンボルであるアート作品には、光の速さを意味する記号として用いられる「constant(定数)」の頭文字である「c」という題名が付けられています。設置された都市のリアルタイムの気象情報に連動して変化しながらも、不変の何かを放ち続けるこの作品は、代表取締役社長の川口がアーティスト平川紀道氏に依頼してゼロから作ってもらったもの。この作品について、作者の平川紀道氏と、キュレーターの能勢陽子氏のお二人が対談しました。

この作品は、日々働いている人たちの後ろに作品がある

能勢一般に、美術館やギャラリーなどの環境は、作品とそれを観る鑑賞者というシンプルな関係で成り立っています。一方この作品は、日々働いている人たちの後ろに作品がある。それは、人間の日々の営為と、そこに影響しつつももっと巨大で自動的な運動をしている気象現象のその両者を含み得ていて、とても興味深いものです。美術館で作品を展示する時とはまた別の構成要素が、作品にうまく活かされていると思いました。外を歩く人は、アートだということが分からないかもしれませんが、稲妻の光のような映像が美しくもあるし、ビジネス上の機能があるわけではないので、何か不可思議なものにも見えるでしょう。思わず見入ってしまうのではないかと思います。作品の依頼があったとき、どのように思いましたか。

平川前例のない依頼でしたが、「オフィスに既存の作品を置くことはできない」と直感的にお返事しました。僕の作品の場合、展示する環境が限定されますし、作品のための空間に、作品が単体で存在することで、その意味が強化されるものでした。なので、既存の作品をオフィスに入れるという選択肢は、物理的にも文脈的にもありませんでしたが、同時に、オフィスに展示するという前提であれば、その環境や文脈を逆手に取って意味を見出すことができるのではないかとも思いました。結果的にオフィスという環境とのコントラストまで含めて作品が映える環境になっているのであれば、それは1つの成功と言えるかも知れません。

ある状態で完成している作品ではなく、
オフィスで働く人たちだけが気づくような
長いスパンの変化や揺らぎのある作品

能勢美術館にいる鑑賞者は作品を観ていますが、ここで働いている人たちは作品をずっと観ているわけではなく、普通に仕事をしています。人間の営為が気象にも影響を与えるようになっている現在、この作品はそのことにも関係があるように思われました。どのような着想で気象情報を取り入れることにしたのですか。

平川オフィスに置くということは、パブリックでありながらも見る人が限られています。そこで働く人たちは何度も見ることになります。そこで、ある状態で完成している作品ではなく、オフィスで働く人たちだけが気づくような長いスパンの変化や揺らぎのある作品がいいだろうと思いました。オフィスという閉じられた空間の中にありながらも、オフィスという日常空間自体を包含する、より大きくて不可視な環境とつながるという狙いで、リアルタイムの気象情報と連動させることにしました。モチーフは、木の枝や根、落雷、素粒子の崩壊など、多くの自然現象に見られる普遍性があり、いろんな意味を引き出すことのできる構造である「ツリー構造」をモチーフに選びました。アンダーデザインはネットワークインフラの会社なので、グラフ理論でいうところのネットワークの1つであるツリー構造とは結果的に相性もよかったと思います。

能勢毎日天気予報をチェックして、普段から気象を体感的に分かっているような気になっていますが、天気の変化はかなり複雑な要因が重なり合って成り立っていますよね。天気予報は、地上の様々な観測データに加えて、人工衛星からのデータも使用し、スーパーコンピューターが導き出している。それでも天気は完全には予測できない。データ化されてはいるけれど、データでは把握しきれないのも自然である。その複雑さを体感的に分からせてくれる作品だと思います。こういった表現は、どのようにしてプログラムし、具現化していくのですか。

平川今回の作品のような場合は、まず、ツリー構造をプログラムとしてどう記述するかを考えるのですが、それは実際の現象を、論理的な構造として抽象化する作業から始まると言ってよいと思います。僕が書くプログラムはオブジェクト指向と呼ばれるもので、機能や構造をひとまとめにしたものをクラスと呼びます。クラスを設計したあとは、どういった気象情報をクラスのどの変数と組み合わせて映像に反映するかを考えます。例えば雲のように実在する気象現象のアナロジーになってしまっては意味がないので、この作業は慎重に行う必要があります。今回はLEDパネルが支持体でしたから、プログラミングの最終調整はここで実物を見ながら行いました。設置する場所の気象が反映されますから、ある意味、サイトスペシフィックでもあります。今後の展開としては、プログラムはアップデートせずに、設置する場所が増えていく方がと面白いと思います。

能勢作品を見た社員の方々が、「なんかすごい」と言っているそうです。すぐに理解できないし、言葉にできないからこそ、すごく心に残る。美術作品は「なんかすごい」と言われるのが、いちばんいいように思います。具体的に説明できたり、簡単に胃の腑に落ちてしまってもおもしろくない。

平川「なんかすごい」というのは受け取る側の問題だと思いますが、そのような曖昧な感覚も、丁寧に考えてみると美術にとって重要な問題を含んでいます。この作品のモチーフであるツリー構造は、論理的にはいたって単純なものですが、それに対してあれこれと手を施していくと、人間が「すごい」と感じ得るものにもなる。その飛躍は興味深いですし、そこが美術なのかなと思います。ロジックで説明すると簡単ですが、実際に出来上がってきたものを見ると、ロジックでは語り切れないものがあります。コンピューターにとっては、美しいアウトプットになったとしても、醜いアウトプットになったとしても、同じプロセスの結果でしかありません。でも、人間という鑑賞者にとっては、意味や価値が異なる。そのことが意味するのは、科学が記述する世界と、人間が見る世界は同じではないということではないでしょうか。

能勢平川さんは個の作家としての表現を押し出すのではないけれど、それでいて、いつも間違いなく平川さんにしか作れない作品になっている。豊田市美術館で展示してもらった作品「16 unknowns and the irreversible」もそうでした。拡散した粒子が収束していく映像が繰り返される映像ですが、それをどう見るかは見る人に委ねられています。この作品にも通底するものがあります。何か人間には見ることはできない、世界の成り立ちに関わっているようなものを見せてくれる。それは、まさに美術であると思います。

【特別対談】
アーティスト平川紀道×キュレーター能勢陽子×UD川口竜広
「オフィスにアートを置くことの意義とは」

平川 紀道Norimichi Hirakawa

アーティスト

1982年生まれ。もっとも原始的なテクノロジーとして計算に注目し、コンピュータプログラミングによる数理的処理そのものや、その結果を用いたインスタレーションを中心に作品を発表。2016年、カブリ数物連携宇宙研究機構のレジデンスで作品「datum」シリーズの制作に着手、豊田市美術館、札幌国際芸術祭プレイベントで発表。17年、チリの標高約5000mに位置するアルマ望遠鏡のレジデンスを経てシリーズ最新作を18年2月に東京で発表。また池田亮司、三上晴子らの作品制作への参加、ARTSATプロジェクトのアーティスティックディレクション等も行う。

能勢 陽子Yoko Nose

豊田市美術館学芸員/ あいちトリエンナーレ2019キュレーター

岡山県生まれ。愛知県を中心に活動。これまで企画した主な展覧会に、「テーマ展 中原浩大」(豊田市美術館、2001年)、「ガーデンズ」(豊田市美術館、2006年)、「Blooming:日本―ブラジル きみのいるところ」(豊田市美術館、2008年)、「Twist and Shout Contemporary Art from Japan」(バンコク・アート&カルチャーセンター、2009年、国際交流基金主催)、「石上純也―建築の新しい大きさ」(豊田市美術館、2010年)、「反重力」(豊田市美術館、2013年)、「杉戸洋―こっぱとあまつぶ」(豊田市美術館、2016年)、「ビルディング・ロマンス」(豊田市美術館、2018年)など。美術手帖、WEBマガジンartscape等にも、多数執筆。